今回これほど箱根駅伝にのめり込んでしまったキッカケは、國學院大學10区の殿地琢朗選手のラストスパートに感激してしまったことでした。
殿地選手が、鶴見中継所で5位でたすきを受けたときは、正直「もう3位はないな」と思いました。
しかし、若い人って本当に無限の可能性がありますね。誰もがあきらめるような厳しい状況から、殿地選手が不可能を可能にしました。
その國學院大學を率いているのが、前田康弘監督です。
前田監督はかつて駒澤大学の主将をつとめて箱根駅伝の初優勝を果たした方で、駒澤大学の大八木弘明監督の教え子にあたります。
いま駒澤大学と國學院大學の師弟対決がとても面白いんです。
両大学の現状も踏まえて、師弟対決についてお話をさせていただきます。
目次
大八木弘明監督はこんな人
大八木弘明さんは、1958年(昭和33年)福島県出身。
高校卒業後、家庭の経済事情から大学進学はできず、実業団・小森コーポレーションの選手となって活躍します。
しかし、箱根駅伝へのあこがれを捨てられず、24歳のとき川崎市役所に勤務しながら駒澤大学の夜間部に入学します。
仕事の合間をぬって早朝と昼に練習しながら、休みの日は1日練習するなど、苦労を重ねながら努力されます。
箱根駅伝では1年生で5区・区間賞。2年生は2区・区間5位。3年生で2区・区間賞。
残念ながら、4年生は年齢制限のため走れませんでした。
大学卒業後は、実業団ヤクルトで選手、コーチとして活躍されます。
この時代では珍しくなかったかもしれませんが、たいへんな苦労人でいらっしゃいます。
その後、1995年(平成7年)、37歳で駒澤大学・陸上部コーチとなり、駒澤大学を常勝軍団と呼ばれるまでに育て上げていきます。
コーチ就任当初、駒澤大学は箱根駅伝出場さえ危ぶまれていましたが、すぐに立て直し、1997年(平成9年)第73回大会では復路優勝、総合6位となります。
そして、2000年(平成12年)第76回大会で、ついに駒澤大学は箱根駅伝・初優勝します。
この初優勝のときの主将が、國學院大學の前田康弘監督です。
その後は、2002年(平成14年)~2005年(平成17年)、箱根駅伝4連覇するなど、平成の常勝軍団を作り上げました。
2004年(平成16年)には駒澤大学・陸上部監督になりますが、コーチの時代から実質的に、ずっと大八木監督が指揮してこられました。
駒澤大学が駅伝強豪校であり続けてきたのも、大八木監督の力量に負うところが多かったと思います。
なお、大八木監督の教え子の中には、東京オリンピック・マラソン代表が内定している中村匠吾選手など、トップクラスの選手もたくさんいらっしゃいます。
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前田康弘監督はこんな人
前田康弘さんは1978年(昭和53年)、千葉県出身。
市立船橋高校から駒澤大学に進み、大八木弘明監督の指導を受けます。
箱根駅伝では、2年、3年と7区を走り、それぞれ3位。4年生では主将として4区8位で走り、駒澤大学の箱根駅伝・初優勝に貢献しました。
大学卒業後は実業団・富士通に進みますが、箱根駅伝以上の目標を見いだすことは出来ず、現役引退。
その後、家業を引き継ごうとするも、お父様が急死され、事業をたたむという不運もありながら、低迷していた國學院大學に招かれます。
2007年(平成19年)に國學院大學の陸上部コーチとなり、2009年(平成21年)に監督に昇格。
就任当初は5000mのベストタイムが14分台の選手は1人しかいなかったということですから、かなり厳しい状況だったといえるでしょう。
目の前の課題から逃げない強さは、駒澤大学時代につちかわれたものだといえますね。
國學院大學には泣けるドラマがある
前田監督は、雑草軍団だった國學院大學を、大八木弘明監督譲りの猛練習で鍛え上げていきます。
2011年(平成23年)第87回大会に國學院大學は出場し、10位で初のシード権を獲得。
このときに、忘れられないハプニングがありました!
残り150m、4校が同時にゴールに飛び込んできて、1校だけシード落ちするという極限状態の中で、コースを間違えるというもの。
日本中で悲鳴があがったハプニングでした。
終わったあとTV番組でも、チームみんなが仲良く楽しそうで、印象に残っています。
感動的なシード権獲得でしたが、その後の國學院大學は箱根駅伝に出られたり、出られなかったり、シード権を取れたり、下位に沈んだり…。
恩師・大八木弘明監督からは、愛情をもって厳しい言葉をかけられます。
『お前はエースを作らないからダメなんだ。絶対的なエースがいないから、後ろの方でチョロチョロしてるんだ。』
そこからエースを作ろうと頑張って、2019年(平成30年・令和元年)第95回大会では、3年生に土方英和、青木祐人、浦野雄平という3人のエースを育てます。
往路では3人のエースが大活躍して3位になり、駒澤大学よりいい成績でしたが、復路ではあっさり抜かれて7位で終えます。
すると、大八木弘明監督から、さらに厳しく指摘されます。
『いくらエースがいても、箱根駅伝は10人でやるんだ。本気で3位以内を狙うためには、もっと層を厚くしていかないと。駒澤大学、帝京大学を倒さないと3位には入れない。』
そこで、エース以外の下級生の育成にも真剣に取り組んだ結果、2020年(令和2年)第96回大会で、みごと総合3位となったわけです。
9区で茂原大悟選手は足がつってしまったのか、終盤で失速してしまったときは、もう3位は無理だと思いましたが、殿地選手が本当にすごかったです。
ただ同時に、殿地選手はラスト勝負に弱く、1km手前でのロングスパートしかないという弱点も露呈してしまったので、もう10区で起用するのはリスクが高いです。
大八木監督からのアドバイスを受けて、少しずつ階段を登って強豪校の仲間入りを果たした國學院大學。
選手が本当に仲が良くて、チームの一体感も素晴らしいです。
駒澤大学の現状と課題
駒澤大学は箱根駅伝において、2008年(平成20年)第84回大会に総合優勝して以来、優勝から遠ざかっています。
決して弱くなったわけではない
かつて4連覇して『平成の常勝軍団』と呼ばれていたので、物足りなく見えるかもしれません。
しかし、箱根駅伝でも、ほぼ3位以内に入っており、決して弱くなったわけではないと思います。
他の大学が、駒澤大学を目標にして、研究して、知恵を絞って戦ってきた結果、競走が激化したというのが正しいところだと思います。
もちろん原晋監督のような天才的な人が現れて、みんな今は『打倒!青山学院大学!』となっています。
しかし、そうやって日本の陸上界全体が底上げされているのだと思います。
大八木監督はイメージで損をしている
それと、大八木弘明監督はイメージで損をしている部分もあるかもしれません。
お会いしたことがあるわけではないのでわかりませんが、『頭ごなしに怒られそうだし、世代間ギャップがあって、何を言っても理解してもらえなさそう』というイメージで、選手からも敬遠されているのかもしれません。
僕はそこも選手と監督の相性なんじゃないかなと思うんですけどね。ある程度は厳しい雰囲気でも、それに合う選手はいると思います。
ただ、スカウトの対象となるような高校生の選手は『青山学院大学の方が楽しそう』とか思いやすいんじゃないかなという気がします。
でも、四六時中バチバチに厳しいことばかりだったら、さすがにあれだけの成績は残せないはずです。
駒澤大学の現状
駒澤大学の現状は、レギュラー級とそれ以下の選手との力の差がありすぎて、あまりチーム内に競争原理が働いていないような感じがします。
レギュラー10人はもちろんのこと、エントリー16人が青山学院大学と戦えるだけの戦力をぜひ揃えてほしいなと思います。
ベストタイムをあげていく部分と、競り合いにも強いという、両方の強さを兼ね備えた選手がたくさん育ってもらいたいです。
絶対的エースの田澤廉選手は、ハーフマラソンだと1時間1分台以上、10000mは27分台までの成長を見たいです。
靴の進化もありますし、他のメンバーも10000mは28分台、ハーフマラソンだと1時間2分台のメンバーが10人ほしいですね。
一方、気になるのが、加藤淳選手のように伸び悩んでいる印象が強い選手も最終学年ですし、奮起してもらいたいところです。
それと、箱根駅伝当日にピークを合わせられず、失速して順位を落とす選手が目立つことも、駒澤大学の心配材料です。
どうしようもない面もあるかもしれませんが、優勝しないといけないチームですので、期待に応える結果を出すのが『男だろっ!』ということで頑張って欲しいです。
気が早いですが、来年のオーダーを考えてみると、1区・小林歩、2区・田澤廉、5区・伊東颯汰といったところでしょうか。
伊東颯汰選手は、本当は山登りで起用するのは惜しいほどの選手ですけどね。
新入生もかなり優秀なベストタイムの選手が入ってきますし、本当に楽しみです。
それ以外の区間を若い戦力で埋めていって、強すぎて憎らしいくらいの駒澤大学が見たいです。
國學院大學の現状と課題
ノンブランド大学でありながら、ここまでよく強くなってきたなと思います。エースが出てきて、選手層も厚くなってきました。
國學院大學も駒澤大学に負けない黄金期を作っていって欲しいです。
前田康弘監督の育成力に期待
前田康弘監督の内に秘めた熱さとともに、冷静に選手との関係性を作り上げながら、育成がうまくいっていると思います。
前田監督は41歳と若いですし、選手としても話しやすいのではないでしょうか。
結果も出ていますし、今後スカウトもいい方向で進んでいくのではないかなと思います。
殿地選手が活躍して本当に良かった
10区で素晴らしい走りをみせてくれた殿地選手ですが、前回8区を走った後、ずっと故障もあって不調でした。
しかし、12月から調子を上げてきたことで、前田監督の判断で、殿地選手が起用されました。
殿地選手が大活躍したので、前田監督の眼力・指導力に対する信頼感は増したわけですが、もし失敗していたら大変なことになっていました。
「殿地は監督のお気に入りだから…。」とか思われて、チーム内がおかしな雰囲気になるところでした。
そんなことになれば、殿地選手も居心地が悪くなったでしょうしね。
そういう意味でも、監督は勝負しないといけないし、チーム全員のことも考えないといけないですし、いろいろなことに気を遣いますよね。
本当にたいへんなお仕事だと思います。
國學院大學の現状
チーム力は過去最高に上がってきているとは思いますが、強かった4年生エースが3人も卒業しましたので、チームとして戦力を維持できるのかが課題です。
新チームにおいてエースと呼べるのは、新3年生の藤木宏太選手、新2年生の中西大翔選手の2人でしょうか。
ただ、2月の丸亀ハーフマラソンで、新4年生の河東寛大選手と新主将の木付琳選手が1時間2分台を出しました。
残っている選手がしっかり自己ベストを出して、チーム全体を底上げしていって、新入生の中から怪物が出てきて欲しいですね。
ぜひ國學院大學の往路優勝、そして総合優勝が見てみたいです。
来年のオーダーを考えてみると、1区・中西大翔、2区・藤木宏太、5区・殿地琢朗といったところかな。
殿地選手は山登りの適正があるかどうかわかりませんが、しっかりラップを刻める選手だと思うので、僕は5区で見たいと思っています。
他にも強い選手が残っているので、まずは2021年(令和3年)第97回大会で、2年連続の箱根駅伝3位を目指していって欲しいです。
そのためにも、土方英和、青木祐人、浦野雄平という卒業したエースを越える気概でないと無理だと思います。
偉大な先輩を尊敬しながらも、自分たちが越えていかないと、青山学院大学や東海大学に勝つことはできませんから。
國學院大學はノンブランド大学なので、スカウトは少し厳しいかもしれませんが、きちんと結果を出し続けていれば、前田監督の指導を受けたいという選手は多いと思います。
2019年度の駒澤大学・國學院大學の師弟対決
監督同士の師弟対決というのは珍しいので、駒澤大学・國學院大學の成績について注目されています。
ちなみに2019年度は、前田監督の2勝1敗でした。これまで國學院大學は駒澤大学のライバルとはいえなかったので、飛躍の年だったといえるでしょう。
出雲駅伝では、優勝目前だった駒澤大学を、残り700mで國學院大學がかわし、そのまま優勝。
國學院大學は学生3大駅伝で、うれしい初優勝でした。
大八木監督は悔しかったでしょうが、負けたのが弟子の前田監督だったので、案外うれしかったかもしれませんね。
全日本大学駅伝では國學院大學は不調で7位、駒澤大学が3位でした。
箱根駅伝は駒澤大学が不調で8位に沈み、逆に國學院大學は目標だった3位でした。
青山学院大学が強いことは誰もが認めるところでしょうが、やはり他の大学も強くなければ、面白くありません。
これからも、この師弟対決は楽しみですね。
最後に
大八木弘明監督、前田康弘監督、いかがだったでしょうか?
このお2人にはいい意味で競い合っていただいて、箱根駅伝をさらに盛り上げていって欲しいですね。
今から、来年の箱根駅伝が待ち遠しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。