箱根駅伝は、関東圏限定の長距離レースでありながら、TV放映の影響もあり、日本中で愛されているコンテンツでもあります。
お正月のめでたい雰囲気の中、初詣を終えて、みんなが団らんしながら観戦するというのがいいのでしょう。
箱根駅伝よりもレベルが高いニューイヤー駅伝がそれほど盛り上がらないのは、なんとも可哀相な気もしますが、今後もレベルアップしながら愛されていくことでしょう。
今回は、箱根駅伝がこうなって欲しいという願望と、今後の箱根駅伝がどのようになっていくか考察してみました。
箱根駅伝はより良い形で発展して欲しい
毎年、お正月に感動を届けてくれる箱根駅伝。これからも熱い戦いを見せて欲しいです。
そして、選手のレベルアップ、目標達成において欠かせないコンテンツとして発展していって欲しいです。
箱根駅伝がマラソンの成績向上につながっていないという批判
箱根駅伝は、日本マラソンの父といわれる金栗四三さんが「世界に通用するランナーを育成したい」という思いから、様々な人の尽力により始まり、発展してきました。
しかし、世界と同等以上に渡り合えたマラソンランナーは瀬古利彦さんだけで、今では世界との差はどんどん広がっています。
それだけに、発足当初の目的を達成できていないとの批判があり、箱根駅伝不要論まであります。
その根拠として、以下の理由などが挙げられます。
②箱根ランナーは実業団で結果を出せていない
③5区「山の神」はマラソンでいい成績を出せていない
でも、僕は③以外はその批判は当てはまらないと思っています。
まず大前提として、箱根駅伝があるから、若いアスリートが陸上競技を志してくれるのであって、もし箱根駅伝がなかったら他の競技にいってしまうでしょう。
やはり広く露出する魅力的なコンテンツが存在することは、大きな意義があると思います。
『①箱根駅伝で走るのは20km程度だけ』については、日本で長距離を走る選手は、以下のとおり少しずつ走行距離を伸ばしていっています。
高校生---3000m~10000m
大学生---5000m~ハーフマラソン
実業団---マラソン(42.195km)
こうして段階を踏んでいるのは、理にかなっていると思います。
世界でも、マラソン世界記録保持者エリウド・キプチョゲ(ケニア)、2位のケネニサ・ベケレ(エチオピア)などは元々5000m、10000mの選手です。
彼らは5000mや10000mのスピードレースで結果を出してから、より長い距離に挑戦していって世界の頂点に到達しています。
ですから、日本人選手も年齢とともに少しずつ距離を伸ばしていくというのは、間違っていないと思います。
『②箱根ランナーは実業団で結果を出せていない』は、日本において直近で上位の記録を出しているのは、ほぼすべてが元箱根ランナーですから、これも当てはまりません。
東京オリンピックのマラソン日本代表に内定している中村匠吾、服部勇馬、大迫傑の3選手は、いずれも箱根駅伝のスター選手です。
つい最近でも、2020年2月2日の別府大分毎日マラソンにおいて、青山学院大学の吉田祐也選手が、実業団選手を向こうにまわして、日本人トップの2時間8分30秒という好タイムで、総合3位になっています。
かつては箱根駅伝に出て活躍することが最大の目標で、その後に実業団にいっても、箱根駅伝以上の目標を見いだせなかったことで、マラソンの成績に結びつかなかったということはあったと思います。
しかし、今は世界と戦える選手を目指す途上で、日本記録を樹立した際には1億円の報酬がもらえるようになったり、色々な工夫や仕組みを作ったことで、ここ数年、日本記録を次々と更新しています。
今後もこうした流れが途絶えることがないように、尽力していただき、さらに世界との差を縮める努力をしていってもらいたいと思います。
『③5区「山の神」はマラソンでいい成績を出せていない』のという指摘については、ある程度は事実といえると思います。
もっともいい成績を残しているのが、初代「山の神」とよばれた今井正人さんです。
彼はマラソンのベストタイムが2時間7分39秒なので、なかなか好タイムだとは思いますけど、日本記録(2時間4分56秒)とは3分近い差がありますし、世界記録(2時間1分39秒)とは6分も離れています。
彼らの場合、「山の神」と呼ばれたときの印象が強すぎるせいで、周囲からその後の競技の成績が物足りないものに感じられてしまうのだと思います。
しかし、箱根駅伝において、山登り、山下りという特殊区間がある以上、山しか走れないという現象が起こることは仕方がないと思います。
逆に、現在の箱根駅伝で本気で勝ちに行くなら、山の専門家(山登り、山下りで最低でも1人ずつ)を育てる以外ないでしょう。
今のところ箱根駅伝とレースは、オリンピック競技とは別物のレースであることは間違いない事実でしょう。
しかし、箱根駅伝が果たしている役割の方が、デメリットよりも大きいはずです。
陸上選手が経済的に潤う環境づくりを
すべてのスポーツにいえることでしょうけども、中学で優秀な選手が高校に引き抜かれ、高校で優秀な選手が大学にスカウトされ、大学で優秀な選手が実業団(野球やサッカーならプロ)に引き抜かれていくことになります。
その中で、もっとも多くの対価を得られるのは、今のところ野球でしょう。その次にサッカーでしょうか。他にも相撲などは比較的たくさんの収入を得られています。
僕の考える中で、経済的にもっとも割に合わない競技は、器械体操と陸上競技でしょう。
この2種目の選手は、立場も収入もサラリーマンとしての給料しか得られないにも関わらず、競技の過酷さから選手寿命が極めて短い傾向にあります。
その中で、瀬古利彦さんが中心となって、マラソンの日本記録を更新した選手には、1億円を獲得できるという形を作ったことは素晴らしいと思います。
でも、野球の日本一の選手の年俸を考えると、1億円では安すぎると思いますが、それでも道筋を作ったことは素晴らしい。
1億円を出したスポンサーがもっと目立つようにして、お金の出し甲斐のあるようにした方がいいと思いますが、それは今後の課題でしょう。
ただし、日本記録を出せるような選手はほんの一握りですから、もっと陸上選手全体が潤うような仕組みを作っていって欲しいですね。
そうしたことを考えるにも、箱根駅伝と選手の知名度が上がることで宣伝となり、陸上競技にお金をかける価値があがって、スポンサーがつくわけです。
もし、その前提がなければ、選手は実業団で競技を続けることもできないわけですから、箱根駅伝の果たす役割はとても大きいと思います。
どちらにしろ、一流の選手にはそれ相応の報酬が得られる仕組みを作ることで、若い選手の励みとなるようにしていって欲しいと思います。
箱根駅伝を関東限定の大会にしておくのは×
箱根駅伝は、関東学生陸上競技連盟が主催して、読売新聞社が共催する大会です。
もちろん歴史や経緯がありますし、関東学連がこれまで苦労して運営してきたのに、『なぜ他の地域に出場権をくれてやらないといけないのだ』という意見が出ることはよくわかります。
それでも、やはり日本全国の大学に、箱根駅伝の出場権を与えるような運営に変えて欲しいです。
TVの瞬間最高視聴率をみても、関東は34.1%。関西は18.1%まで下がります。
関西に住んでいる人間にとって、箱根駅伝で出てくる地名も、土地勘がないためピンとこないし、自分たちには関係ないと思う人が多いからです。
今のところ箱根駅伝は人気がありますが、常にファンを拡大し増やしていく努力を怠れば、必ず先細りになってしまいます。
それに、箱根駅伝に出場するチャンスが日本全国に広がれば、地方の陸上競技も活気づくことでしょう。
それでは、関東の大学が箱根駅伝に出場できるチャンスが減ってしまうということであれば、出場校を増やせばいいだけですから。
それに、関東の大学関係者の方は心配する必要ないですよ。
関東圏以外の大学が、そんなに簡単に厳しい予選会を突破できるわけがないんですから。
これまで箱根駅伝への対策もしたこともなければ、資金力も乏しい地方大学が、関東圏の大学に対抗するためには、それはそれはものすごい時間がかかりますよ。
日本全体の陸上競技界を盛り上げていくためにも、英断を下せるような人がいて欲しいです。まぁ難しいとは思いますが…。
5区6区コースの改善
「世界に通用するランナーを育成する」という思いからできた箱根駅伝ですが、実際は、世界には20km前後のレースというのは、ほとんどありません。
オリンピック種目では、10000mとマラソンはありますが、ハーフマラソンはありません。
それでも、大学生の育成という意味合いからすると、少しずつ走行距離を伸ばしていく過程として、現行の走行距離は問題ないと思います。
しかし、世界のマラソンの潮流は、コースの高低差がほとんどない中での高速レースとなっています。
箱根駅伝の代名詞ともいえる山登り・山下りといった極端な高低差があるレースはほとんどありません。
『山登りがあるから箱根駅伝らしくていいんだ』という意見もあるでしょうけども、世界の潮流とは明らかに合わなくなっています。
特に、6区・山下りは下手したら、選手の膝や足首などに致命的な故障を発生させかねないと思います。
そういう意味では、世界の流れにあわせて、5区6区は平坦なコースに変更できないのかなと思っています。
今後の箱根駅伝がどのようになっていくか考察してみた
これからも箱根駅伝はどんどん進化していくと思いますが、どうなっていくか考えてみました。
ヴェイパーフライなどの靴の進化は当然これからもあると思いますが、それだけでは面白くないので、靴の進化以外で考えてみました。
箱根駅伝に向けて強化する大学は増える
これまで、Fラン大学などと揶揄される大学が、大学の生き残りをかけて、駅伝部の強化をしていくケースがよく見られました。広告宣伝のような感じですね。
青山学院大学の成功をみて、立教大学は上野裕一郎さんを監督に招聘しています。
上野さんはかつて中央大学のエースで、立教大学は2020年の箱根駅伝予選会では23位でした。
今後どんどん成績を伸ばしてくるかもしれません。
また、慶應義塾大学は『慶應箱根駅伝プロジェクト』を立ち上げて、様々な機関とコラボレーションしながら、寄付金を募り、大学としても思い切って予算もかけて強化しています。
OBとしても『なんで早稲田や青学があんなに目立ってるのに、俺たち慶應が蚊帳の外になってるんだ!』ということで、メンツにかけても本気で取り組んでくることでしょう。
お金をかけたからといって、そんなに簡単に結果がついてくるとは思えませんが、もし予選会を突破すれば、話は変わってくるでしょう。
いい指導者の奪い合いが起きるかも
青山学院大学の原晋監督は、その著書の中で『立教大学なら箱根駅伝を優勝させられる』とまで言っていますから、指導者の引き抜きまで起こる可能性もあります。
でも、もう監督の育成力だけに頼るのは無理だと思います。
大学全体で応援して盛り上げていくというか、監督だけじゃなくて、コーチ、スカウトも含めて、チームとして隙なく強化していかないと厳しいでしょう。
ただし、こうして競争が激化すればするほど、立教大学や慶應義塾大学のようなブランド大学は選手のスカウトで有利になりますから、これからさらに大変な競争になっていきますね。
データ解析やAIの導入
最終的な見極めや判断は、当然その大学の監督が、自分の目で見て行うでしょうが、箱根駅伝のコースや気温、風向き、選手の適性など、指導者の感覚にだけ頼るのではなくて、AIが登場するのもそう遠くないと思います。
AIが導く最高の区間配置とか、予想優勝タイムとか、予想ラップタイムだとか、そういったものがかなり正確に予測できるようになるのではないでしょうか。
そのためにも相当量のデータをいれて、こういうタイプの選手は、この時期にこのタイムで走っていたら、箱根駅伝ではこの位のタイムになるとか、かなり正確に予想できるようになるんじゃないかと思います。
感情を完全に抜きにして判断するAIツールがあれば、感覚に頼らない冷徹な判断ができるようになるので、それも武器になるんじゃないかなと思っています。
それでも、最後は指導者の腕がものを言うはずですけどね。
医療と駅伝(陸上)のコラボレーション
箱根駅伝を走るようなランナーは、かなりハードな練習をするためか、疲労骨折などの故障をするケースが目立ちます。
そうした故障を防ぐとか方法、体幹トレーニングとか、血液から肺活量を上げていく方法とか、これからも医療とスポーツは強く結びついていくと思います。
筋肉の付き方とか肺活量とかのデータを取っていく中で、こういう特徴を持った選手は伸びていきやすいことがわかれば、スカウトに役立てたり、色々な試みがでてくると思います。
また、選手のメンタル面についても、より良い影響を与える研究と試行錯誤は繰り返されるでしょう。
ただ、選手のスカウトに関しては、野球のドラフトでもあれだけ騒がれてプロに入っても全然活躍できない選手もいるわけで、こればかりは実際にやってみないとわからないでしょうけどね。
箱根ランナーの費用負担を軽減して欲しい
箱根ランナーはほとんどの選手が、寮生活を送っています。
学費が年間100万円、寮費や治療費などで100万円、その他に、もう大人ですからお小遣いなども必要でしょうから、4年で1000万円以上かかるそうです。
これに年間で約60日程度の合宿にかかる費用など、莫大な費用が掛かります。
選手の親御さんにとって、かなりの負担ですよね。
以前聞いたことがあるのですが、自衛隊の若い隊員が『箱根駅伝に出たいから、自衛隊で働いてお金を貯めている。』なんていう涙ぐましい話も聞いたことがあります。
もちろんスポーツ推薦の選手も多いと思いますので、いくらかは補助が出たりするでしょうけど、それでも大きな負担となります。
費用負担を下げるだけでも、かなり変わるのでは
才能があって優秀な選手なら、学費も寮費もタダでいけるよ!という風にはできないのでしょうか。
特に、箱根駅伝にどうしても出たいという大学。
厳しい財政状況だとは思いますけども、何人かの選手の費用を大幅に下げたとしても、大学全体として吸収できないものでしょうか。
本当は挑戦したいけど、お金がかかるから諦めているという選手も実は多いのではないでしょうか。
そうした人にもチャンスが与えてあげて欲しいなと思います。
選手を広く公募してみては
もし、今スカウトがうまくいっていないのなら、SNSとかで積極的に発信して、『この学費・寮費で駅伝部に入れますよ!我が大学で箱根に挑戦してみませんか!』と広く募集してみるというのもアリなんじゃないかなと思います。
プロ野球のトライアウトみたいに、『箱根駅伝に出たい!挑戦したいという君!わが大学の記録会で好成績を残して、入部してくれれば、すべて込みで年間100万円で通えますよ!』みたいな試みも面白いんじゃないかと思います。
例えば、サッカーでは芽が出なかったけれども、ずっと走りながらプレイしているから、長距離を走るのがメチャクチャ速いという選手は埋もれてると思うんです。
サッカーや野球で結果が出なかったから、もうスポーツは諦めていたけど、チャンスがあるなら箱根駅伝に挑戦してみたいという若いアスリートはいるんじゃないでしょうか。
中央学院大学の武川流以名選手のように、高校までまったく陸上をやっていなくても、大きく成長する選手も実際にいますから、そういう選手を発掘しやすい環境を作ってもいいのかなと思います。
青山学院大学や東海大学みたいに、すでに結果を出している大学は、待ちの姿勢で構わないと思いますが、そうでない大学はいろいろ知恵を絞ってみることも大事じゃないかと。
あの大学は面白い!本気で盛り上げようとしている!と注目されるのもいいのではと思っています。
2年で結果が出なければ、補助をなくす
現在、青山学院大学では2年終了時に、5000mで14分35秒を切ることができなければ、強制的に選手を引退し、退部するかマネージャーになるルールになっています。
他大学でも同じようにしているかもしれませんが、選手として活躍が見込めない以上、仕方がないのかなと思います。
スポーツ推薦などで特典を与えられている以上、結果が出なければ、選手としては終わりということにして、その費用を次の新しい選手に与えていくということにして、限られた予算を割り振っていく必要はあると思います。
箱根駅伝の利益を、選手に還元すべき
箱根駅伝は、関東学生陸上競技連盟が主催して、読売新聞社が共催する大会です。
これに日本テレビが放映し、ラジオ放送もあります。その他諸々を考えると、相当大きな額が動いているはずです。
その他、スポンサー企業もたくさんいるわけですから、大きな収益が入っているはずなのに、お金がきちんと流れていないと思います。
ところが、箱根駅伝に出場した各大学には、強化費として300万円が支給されるだけだそうです。
箱根駅伝に出場するようなチームでは、選手を平均で60名ほど抱えていますし、監督、コーチ、マネージャーなども含めれば、かなりの人数となります。
また、各大学で合宿は年間60日程度は行われていますので、それにかかる費用は、宿泊費、栄養費、治療費などで莫大なものになります。
それなのに、一番頑張っている選手たちには、わずか300万円の強化費しかもらえないのです。
60名で割ったら、たった5万円ですよ。
箱根駅伝でとんでもなく大きなお金が動いているはずなのに、どこに消えていったのでしょうか。
誰かが選手を利用して、うまい汁を吸っているはずです。
こういうことを言うと、しょうもないネット民が『アマチュアスポーツは優勝すれば、名誉をもらえるのであって、お金を欲しがるのは違うと思う。お金が欲しいならプロになれ』などと、バカなことをいう輩が多くいます。
しかし、こうした的外れな批判をする輩は、選手は金の亡者でも何でもなくて、ただ強くなるために多額のお金が必要になることを知ろうともしていません。
結局、親御さんにとって大きな経済的負担となって、重くのしかかってくるのです。
最後に
素人が思いつくままに色々と書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
箱根駅伝という日本長距離界において、最高のコンテンツがより良いものとになって、世界と戦える人材育成につなげていってもらいたいところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。