今年の箱根駅伝でもっともサプライズだったのは、創価大学のシード権獲得でしょう。
2年連続で予選会敗退から、予選会を5位で通過して、まさかの箱根駅伝・本戦でのシード権獲得でした。
いろいろ調べてみると、これだけわかりやすく良い面と悪い面を示してくれる大学もなかったので、箱根駅伝・シード権の獲得方法も含めてお話をさせていただきます。
目次
創価大学の特殊事情
創価大学は、1971年(昭和46年)に、創価学会第3代会長・池田大作氏によって設立されました。
創価学会員でなくても入学できますが、学生のほとんどが創価学会員だといわれています。
また、敷地面積が約87万㎡ですから、甲子園球場(約3.85万㎡)の22個分以上という、かなりの広さです。
東京・八王子市でこれだけの敷地をもつわけですから、すごい資金力ですね。
宗教系大学の難しさ
学生のほとんどが創価学会員だという創価大学。駅伝部の部員もほとんどが創価学会員でしょう。
ここが難しいところですね。
創価学会の信者さんは喜んで創価大学に入るかもしれませんが、非信者で「創価大学に入ろう」という人は聞いたことがありません。
ということは、非信者はまずスカウトできないということになります。
他にいくらでも有力な大学があるのに、わざわざ創価大学を選ぶ選手はいないでしょう。
新入生の5000mのベストタイムを見ても、他大学の新入生と比べて1枚も2枚も落ちるのが現状です。
ただ、日本最大の宗教団体がバックだけに、資金力はあるのだと思います。
こういう大学は、豪華な寮やグラウンドなどの立派な箱物はポンポン作るけれども、肝心のソフト・人の部分がおざなりになりがちです。
たまたま箱根駅伝に出場できていただけ
創価大学は今まで、2015年(第91回)と2017年(第93回)、そして2020年(第96回)と3回、箱根駅伝に出場しています。
これを見てもわかるように、これまで連続して出場できたことが1度もないんですね。
旧指導陣の指導力が高くないことはわかりますが、たまたま意識が高くて、いい選手が集まったときだけ、箱根駅伝に出場できていたということです。
結果を出し続けられる組織作りが全くできていない。
新監督就任前は、ポイント練習が主で、月の走行距離は500kmに満たない選手も多かったようですから、どう考えても少なすぎますよね。
はっきりいって旧指導陣は何もしていなかったけれども、91回大会は山口修平選手(現・旭化成)が、93回大会はセルナルド祐慈選手(引退)が、素晴らしいキャプテンシーを発揮していたのだと思います。
2020年、第96回大会も、もし新監督になっていなければ、出場できていなかったでしょう。
問われる旧指導陣の怠慢
今回、1区で区間賞をとったエース米満怜選手。
よければ下記の記事も読んでみていただきたいのですが、他の記事もいくつか読みましたが、以下のような記載があります。
満を持して迎えた大学3年目。副将にも任命され「再びチームを箱根へ」の強い思いを抱いて臨んだが…。
そのやる気が時としてチームメイトへの厳しい態度となり、思わぬ影響を与えてしまう。
「すごくピリピリしていて、それがチーム全体を壊すことになり、周りが自分に付いてこれなくなってしまったんです。」
要は、箱根駅伝に出るために『もっとストイックに練習しないとダメだろ!』と、チームメイトに当たり散らしてしまったということでしょう。
米満選手の言い方もよくなかったのかもしれません。
でも、こういうことは選手同士で起こりうるでしょうけど、やはり指導者がチームの雰囲気や選手のやる気を上げていかないといけない。
でないと、指導者がいる意味がありません。
青山学院大学でも『選手がミーティングを行い、運営は自主的に進めている』と言っていますが、それは青山学院大学の陸上部が組織として、すでに成熟しているから出来ているだけです。
それに、最後は原監督がチェックして、選手をそれぞれ指導しているわけですから、『自由な雰囲気であっても、好き勝手ではないし甘くもない』はずです。
米満選手は、本当は旧指導陣に文句を言いたかったんじゃないかと思います。でも、指導陣に言えなかったから、矛先がチームメイトに向いてしまった。
それで、意識の低いチームメイトから『なんで、あの人は監督でもないのに、あんな偉そうに言われないといけないわけ?』みたいな雰囲気になっていってしまったんだと思うんですよね。
選手も同好会のように甘い意識なのに『箱根駅伝をめざして頑張ってます』みたいな美辞麗句だけが踊っているから、米満選手はピリピリするわけですよ。
さらに、米満選手を追い詰めるようなことも言われています。
『うちは強豪校出身の強い選手が多くいるわけではないので、そのやり方(周囲に厳しく接すること)は合わない。それなら自分の走りに集中することで、チームを引っ張るようにしたらいい』
もっともらしい言い分のようですが、指導者が本気で箱根駅伝に出るために努力しているとは思えません。
選手にだけ責任を押しつけるような逃げの言い方です。
「じゃあ、強豪校から強い選手がもっと来てくれるような大学になろうと努力しているのか?」
どちらにしろ、旧指導者も何をどう進めていけばよいか見えていなかったはずです。
『選手の自主性を重んじる』などと言いながら、指導放棄しているような状態だったといえるでしょう。
エースの本気がチームを動かした
この後、2019年2月に、中央大学で箱根駅伝4連続区間賞を獲得したという榎木和貴氏が、創価大学の新監督に就任されています。
創価大学・駅伝部HPで榎木監督のインタビュー記事を読ると、下記の記載がありました。
『2018年11月に、創価大学関係者に初めてお会いして「指導体制を見直して、あらためて箱根を目指したいと考えている」とお話があり、2018年12月に正式に監督就任要請がありました。』
2017年10月の予選会で12位、2018年10月の予選会で15位に沈んだ後ですね。
先ほどの米満選手の話もありましたが、チーム内の空気も最悪だったことでしょう。
もちろん、もっと前から新監督を探していたのかもしれませんが、どちらにしろエース米満怜選手の勝利への執念、本気の勝ちたい気持ちがチームを動かしたと思います。
榎木監督は口が裂けても言わないでしょうが、『正直ほかの大学なら考えるけど、創価大学の監督は引き受けたくないなぁ』と、当初は思われたのではないでしょうか?
『チーム状況も悪そうだし、創価大学は得体が知れない』ということで、かなり悩まれたに違いありません。
だから創価大学の選手は、もっと米満選手に感謝した方がいいですよ。
変に仲良し集団でダラダラ過ごして何も変わらないより、嫌なことを言われてキツイ練習になったとしても、箱根駅伝に出て貴重な体験をする方が、後々はるかに変わってきますからね。
やってきたプロ指導者・榎木和貴
2019年2月に監督に就任した榎木和貴さん。ちなみに榎木監督は創価学会員ではないそうです。
まず着手したのは、①ケガの後のリカバリー方法の確立。
それまでは痛みがひいてきたから練習して、またケガをするというパターンを繰り返していたので、時間をかけてケガを繰り返さないようにするための方法を伝えていきます。
『練習するまでの準備、ケガから練習復帰までのプランが何もなかった』とおっしゃっています。
そして、②月間走行目標750kmの設定。
月間走行距離が500kmという、明らかに走り込みが足りていなかった創価大学。
そのため、まず押しつけにならないようにしながら、GPSウォッチでどこを何km走ったか、走行時の心拍数までデータが残るようにしていき、若い人でも抵抗が少ないように努めます。
結果を出している選手が、いつどんな練習をしているかが全員に見えるようにしていきます。
米満選手のような他人との接点を持つことがあまりうまくない人でも、これなら背中で見せられますね。
最後は③選手との対話、個人面談。
青山学院大学のように、意識づけがすでにできている組織なら、学生同士でミーティングを行って、あとは原監督がチェックするということもできるのでしょうが、創価大学はまだまだこれからでしょう。
これらを見ても、プロ選手並みの練習をしなければ勝てなくなっている大学駅伝においてやるべきことを、プロ指導者が来てはじめて教えてくれたというところでしょう。
宗教系大学として飛躍できるか
僕は創価大学が宗教系大学だからといって、それが原因で今後は伸び悩むと考えるのは、視野が狭すぎると思っています。
世の中に宗教系大学なんてたくさんあります。
青山学院大学だってキリスト教の大学ですし、国際基督教大学だって信者以外の人が喜んで通っています。
かつて、高校野球でPL学園が甲子園を席巻していましたしね。
要は、選手にとって、あそこの学校に行けば、自分は強くなれる、箱根駅伝で優勝できる、自分の成長につながると思ってもらえれば、宗教系大学なんて全く関係ないはずです。
創立者の池田大作氏が、創価大学をどのようにしていきたいと考えているかは、僕にはわかりません。
しかし、創価大学を今のような創価学会の出先機関や幹部育成機関のようにしたいとは思っていないでしょう。
信者以外の人も、創価大学に通いたいと思うような大学にしたいと思っているはずです。
現状なかなか難しいとは思いますが、この駅伝部が、箱根駅伝のシード権常連校になれば、創価大学に行っても構わないという非信者の高校生も出てくると思います。
なにより榎木監督が、創価学会員ではないのですから。
そして、箱根駅伝で優勝を狙える大学になれば、イメージは少しずつ変わっていくはずです。
そのように、外部から人(非信者)を呼び込む努力をしないと変われないと思います。
そのためにも、榎木監督がやりやすいように大学関係者も協力して、結果を出していくことです。
まずは、2021年(令和3年)の第97回大会でシード権を獲得することです。
それができなければ、また以前の創価大学に逆戻りしてしまうことでしょう。
他のシード権を狙う大学は、創価大学を標的にしてきますから、苦しい踏ん張りどころですが、がんばって欲しいですね。
特に、箱根駅伝の勝ち方を知り尽くしながらも、シード権を奪われた形になる中央学院大学の執念は凄まじいものがあるでしょう。
箱根駅伝でシード権を獲得するには
箱根駅伝のシード権を獲得するには、総合順位で10位以内に入ることです。でも、これは至難の業です。
まず10位以内に入ればいいと考えるのは、甘い考えです。
シード権の枠は、実は2校しかない
10位以内といっても、現状の戦力から考えると、シード権の枠はほとんど残っていません。
今年の総合順位を見てください。以下の大学で、来年シード権を失う可能性がある大学がいくつありますか?
②東海大学
③國學院大學
④帝京大学
⑤東京国際大学
⑥明治大学
⑦早稲田大学
⑧駒澤大学
⑨創価大学
⑩東洋大学
僕はシード権を失う可能性があるとすれば、⑤東京国際大学、⑨創価大学、⑩東洋大学の3校だと思います。
このうち⑩東洋大学は、今年は想定外に悪すぎました。
でも、エース相澤晃選手も卒業しましたし、来年チームを立て直させなければ、シード権を失う可能性はあると思います。
しかし、東洋大学にはかなり優秀な新入生(学法石川ラインなど)が入ってきますし、むざむざシード権を失う可能性はやはり低いと思います。
そうなると、主力の4年生がごっそり抜ける東京国際大学と、想定外によかった創価大学が狙われますから、この2校は、2021年(令和3年)の第97回大会は危ないと思います。
ということで、シード権の枠は実質わずか2校しかないのです。これは今後もそう変わらないはずです。
1区2区で絶対に出遅れてはいけない
たまに、1区2区に主力の選手を配置せず、ズルズル沈んでいくチームがありますが、勝つ気があるのか?と思ってしまいます。
最初から出遅れていて、後から巻き返せるほど、箱根駅伝は甘くありません。
最低でもシード権を取るつもりがないなら、出場する意味はないと思いますし、やはり最初から全力を出して、前に食らいついていくしか方法はないと思います。
往路で13位より下で、巻き返せることはまずないはずです。人間心理から考えても明白です。
『人間は何かをつかもうとするより、今あるものを失いたくないという気持ちの方が強い』
でも、今年の1区(21.3km)の区間賞は1時間1分13秒です。ハーフマラソンより200mほど長い距離で、このタイムです。
あと数年すれば、区間記録(1時間1分6秒)も破って、1時間0分台に突入することでしょう。
ベストタイムは目安にしかなりませんが、最低でも10000mで28分台、ハーフマラソンで1時間3分台の選手でないと厳しいでしょう。
「今年はあのハイペースに苦しんだけど、来年はあそこまでハイペースにはならないだろう」という甘い考えは捨てた方がいいですよ。
そもそも青山学院大学が1区に弱い選手をいれるわけがありませんし、誰か1人でも『俺が1区で勝負つけてやる!』と仕掛けたら、それで終わりですからね。
くわえて青山学院大学は1区の途中、15km過ぎの京急蒲田あたりから仕掛けるケースも多いですから、シバキ合いにも強いことが求められます。
逆に、15kmまでは自分で仕掛けて、足を使わないことですね。存在感を消すくらいに静かについて、自分が決めた仕掛けどころで勝負することです。
2区は言うに及ばず、最初は突っ込んで、まず前に追いつくこと。その後は20kmからの坂に備えて、じっくり戦う必要があります。
もしトップ集団にいるなら、同じように突っ込んで入って、後ろに簡単に追いつかせないことですね。
予選会・集団走の弊害
いま箱根駅伝予選会において、いわゆる集団走をほとんどの大学がやっています。
1人ではペースがつかみにくいけど、集団でなら走れる選手がいることは事実なので、戦略として仕方がない面はあると思います。
しかし、その集団走のせいで、単独走になる箱根駅伝本戦では予選会どおりの結果を出せないことは周知の事実です。
シード権を本気で取るつもりなら、予選会では、集団走で走る選手は最小限にして、それ以外の選手はできるだけ前で競って走って勝負する。
そして、前の方で走るのがどうしてもキツくなったら、自分の大学の集団走に入って、そのペースだけは絶対に死守するという戦い方が現実的じゃないかなと思います。
そうしないと本戦は厳しいですし、1人1人の力はつかないと思います。
超高速化した中での戦い
2020年(令和2年)の第96回大会は超高速化を印象づける大会となりました。
ヴェイパーフライなど、靴の進化も超高速化を加速させました。
10位の東洋大学は悪すぎただけだと考えると、9位の創価大学のタイム10時間58分17秒がシード権獲得のベンチマークになってきます。
仮に、各区間の10位のタイムを集めてみました。
2区 1時間07分52秒
3区 1時間03分03秒
4区 1時間02分49秒
5区 1時間12分55秒 5時間28分48秒(9位相当)
6区 59分25秒
7区 1時間04分28秒
8区 1時間06分39秒
9区 1時間10分05秒
10区 1時間10分43秒 5時間31分20秒(10位相当)
ということは、自ずとやるべきことは見えてきますね。
②往路をいい位置で終えた上で、さらに復路により強い選手を配置する
この2つのどちらか一方、もしくは両方を満たしていくしかないということになります。
それを最初の1区2区なんかで遅れていたら、どんどん負の連鎖で走れなくなります。何事も最初が肝心ですね。
でも、このタイムを出せても厳しいと思います。
どんどん超高速化していますし、創価大学の監督は、4年連続区間賞の榎木監督ということを忘れてはいけません。
榎木監督の実力はもちろんのこと、箱根駅伝の勝ち方を知っていなければ、到底できないことをやってこられた人なのですから。
創価大学としては、日本人エース米満怜選手の抜けた穴を、全体の底上げで埋めていかないといけません。
1区を区間1ケタの順位で走れる選手を育てて、日本人エース格の鈴木大海選手、原富慶季選手にはハーフマラソンで1時間2分台は出して欲しいところです。
それに加えて、ケニア人留学生のフィリップ・ムルワ選手の活躍しだいでしょう。
僕は個人的には、中央大学、中央学院大学、拓殖大学、順天堂大学などとの激しいシード権争いを期待していますが、どの大学にとっても厳しい戦いが待っていますね。
最後に
創価大学のシード権獲得についてお話させていただきました。いかがだったでしょうか?
これからも箱根駅伝は、陸上長距離の甲子園のようなコンテンツとして愛されることでしょう。
各大学とも浮き沈みはあるでしょうが、がんばって欲しいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。